おまけ

響達「プロジェクトフェアリー」とそのプロデューサー達ご一行は響の故郷である沖縄で一時的な休暇を満喫していた。

それぞれ昼間は二人組で行動し、夜になると皆で集まりゲーム等をする。

修学旅行の様なそんな雰囲気だった。

ある日の夜

ホテルの一室で皆でトランプをしていた時に事だった。

「ぬぅぅぅぅぅ!何で勝てないんだ…」
そう唸っているのは他でもない響だった。

ババ抜き・神経衰弱・大富豪・七並べ

どれをやっても響は誰にも勝てなかった。

そんな響とは対照的にプロデューサーはどれをやっても1番なのである。

「この差は一体…」

「響はわかり易いんだと思うな☆」
美希が無邪気に言う。

「顔に出ていますから」
貴音が追い込みを掛ける。

「ぐぬぬぬぬ…」

「そもそも響ちゃんのプロデューサーに勝つのは厳しい気がするな…」
美希のプロデューサーが言うと貴音のプロデューサーも続く。

「確かに、オーデもそうですけど現場判断以外の指示は響ちゃんのプロデューサーによるものですし心理戦では…まだまだですね、僕も」
と響達と比較的年の近い貴音のプロデューサーは笑った。

「くっそ〜〜〜!いつかにぃにぃに勝ってやる!その前に一番弱そうなプロデューサー君だ!」
と響はビシッと貴音のプロデューサーに人差し指を指す。

「ぼ、僕…?まぁ確かに…でも弱そうって…」
何やらブツブツと呟いている貴音のプロデューサーを他所に響のプロデューサーはトランプを片付け始めた。

「さてとー、今日はもう解散かな。プロデューサーズは後でミーティングしましょうか。響達はまぁ好きにしてていいよ」

「はーい☆ミキ、露天風呂入ろうかなぁ♪」

「お、いいねー!じゃ自分も行こうっと。貴音も行くでしょ?」
貴音は自分のプロデューサーをチラリと一瞥して返事をした。

「えぇ、ご一緒致します」

「おっけー、じゃ準備が出来たらおいでよー。あ、そうだ」
響はてててっとプロデューサーの下に駆けて行った。

袖をクイッと引っ張るとプロデューサーが首を傾けてくれる。

「後でトランプ教えてよ」
口を手で覆って小声で囁く。

「いいよ」
プロデューサーは笑って答えてくれた。

「じゃ後で行くからねー」
そう言って響は自室へと向かった。

とは言っても響達は3人で一部屋なので結局3人共部屋で一緒になり露天風呂に向かう事になった。

「ふぁーっ♪極楽極楽♪」

「おっさんくさいの…」

「うぐ…」

「ミキ、胸の大きさには自信あったのに…響と貴音の中だと一番…シクシク」

「ん?そっかなぁ。大して変わんないだろ?自分と美希は。それより…」
響はチラリと貴音の胸を覗きこむ。

「貴音は本当にいい体してるよなー。肌白いし、うひひ」

「やっぱりおっさんくさいの…」

「ぁう…」

「はぁ…」
体を流してから勢い良く飛び込んだ二人を他所に貴音は一人浮かない表情だった。

「にゅ?どしたの、貴音。悩み事?」

「溜息吐くと幸せが逃げるよ?」

「え?そう言う物なのですか?」
美希の言葉に見せた貴音の微かな動揺を響は見逃さなかった。

「はっは〜ん?」
意味深ににやりと笑う。

「貴音〜もしかして恋煩いって奴だろー?」
貴音の顔に疑問符が浮かぶ。

「恋煩い?これがそうなのですか?」
貴音の言葉に二人の表情が引きつる。

「あ、あぁ。そうね…知らなかったのね。て言うか何を考えてんのさー」

「いえ、ちょっとプロデューサー様の事を…」

「誰の?」

「私の…」

「んにゃるほどぉ、やっぱりそうか!で、どんな感じなのさ」
貴音の言葉を美希と響はワクワクしながら待っていた。

「何と言いましょうか。ソワソワとして落ち着かないと言うか、つい目で追ってしまうと言うか…」
その言葉を聞いて当の本人より二人ははしゃいでいた。

「そっかそっかそっかぁ♪」
「やったやったやったぁ♪」
そう声を上げながら両手でハイタッチしている位の浮かれ様だった。

「何故お二人が喜ばれているのか…」

「それはねぇ、もうミキさん♪」
「ですよねぇ、もう響さん♪」
「???」
一人小首を傾げる貴音を他所に二人は何故か満足そうに頷いている。

「うんうん、貴音もそんな歳になったの☆」
「今日はお赤飯だな!」

「はぁ」

「でも、プロデューサーさん悪くないってミキは思うな☆」

「うん、自分もそう思う。プロデューサー君なら真面目だし絶対お似合いだよ!」

「そ、そうなのですか?」
訳も解らないが何だが照れくさい様な気がした。

「ただなぁ…」
響はそう言い掛けると腕を組んだ。

「貴音はその名の通り”高嶺の花”だからなぁ…プロデューサー君が頑張れると良いけど…うーん」
考え込む響に貴音が声を掛ける。

「お二人はどうなのです?」

「え?」
ボンッと音を立てて響の顔が真っ赤に染まる。

「ミキははにぃの事好きだよ☆何でもしちゃうってカンジかなっ☆」
美希は何事も無い様に答えるのに大して響は思い切り動揺していた。

「あ、あはは。ぇと、あぁうん。そう…。にぃにぃの事ね、うん…。その、…好きって言うか…大好きって言うか」
聞こえるか聞こえないかの小さな声で合わせた指をクルクル回しながら響は答えた。

その様子を見て貴音は何かを納得した様に淡く微笑んだ。

「十人十色なのですね」

「ま、まぁそうじゃないかな?同じ人なんて絶対居ないし」

「そうですね、もう一度答えを探してみます」

「そだねっ!じゃじゃあ、そろそろ出よっか?何か、熱くなってきちゃったし!」
響は浴衣に着替え部屋に戻ると早々に部屋を後にした。

コンコン

とドアをノックすると中からプロデューサーが顔を出した。

「いらっしゃい」

「えへへっ、お邪魔しまーっす」
ピョンと飛び跳ねて中に入り部屋を見回す。

「ほぇーっ」

「特に変わった所は無いだろ?寧ろ響達の部屋が一番豪勢なんだけどなぁ」
確かにそう言われれば特に変わった所は無かった。

しかし、響には何とも言えないもの珍しさがあった。

「いや、何となくさ。男の人の部屋に来るのって初めてだったからさ」
今までに感じた事の無い高揚感だった。

短期間とは言えプロデューサーが寝泊りしている部屋に自分は今居るのだと思うとなんだか嬉しくも恥ずかしくもあった。

「そう言うもんなんだね、女の子って言うのは。さてと、トランプだったっけ?」

「うん!強くなる方法教えてよ!」

「強くなる方法って言われてもなぁ…」
プロデューサーは真剣に悩んでいた。

何せ強くなろうと思ってトランプをした事なんて今までに無かった。

「とりあえずババ抜きしてみる?」
プロデューサーの提案に響は快く頷いた。

「おっけー、じゃあ勝負しよう!」
勝敗は明らかだった。

「うがーっ!」

「取りあえず顔に出る癖直したら…?」

「自分、そんなに出てる?」

「思いっきり」
プロデューサーがババに手を掛ければニコニコし、違うのを触ればこの世の終わりみたいな顔をする。

これで勝てと言うのが無理な話だった。

その後、大富豪や七並べをしてみても結果は決まっていた。

「自分には…才能が無いのかも…」

「そうかもね…」
プロデューサーが苦笑いで答える。

「にぃにぃはさ、何でそんなに強いの?」

「強いとかそんな風に考えた事無かったけど…」

「んと、じゃあさ。オーデとかで例えてよ。プロデューサー君もさっき言ってたけど心理戦て奴が関係してるんでしょ?」
「うーん」と唸りながらプロデューサーは下唇を撫でて考えていた。

そして暫くしてポンと手を叩いた。

「丁度いいのがあるじゃないか」

「んえ?」
響が聞き返すとプロデューサーは散らばっていたトランプを集めてきり始めた。

「これが答えになるかどうか解らないけど結構近いと思うな」
そう言ってプロデューサーは赤いカードと黒いカードを一枚ずつ響の前に置く。

「これから俺が適当に一枚ずつ引いて行くから響はそれを赤の上に置くか黒の上に置くか決めていいよ」

「うんうん」

「それで俺が見事、赤と黒を綺麗に半分ずつ並べてあげよう」

「何それ!手品!?」
興味津々に聞いてくる響に対してプロデューサーはいつもの様に意地悪く笑った。

「さぁどうだろうね」

「絶対当てられない様にしてやる…」

「フフッ、じゃあいくぞ。これは?」

「赤!」
響の問いにプロデューサーはトランプの背中を向けて赤の上に置く。

「これは?」

「赤!」

「うーんと、じゃあこれ」

「黒!」
そんなやり取りを繰り返して赤と黒のカードの上にはそれぞれ10枚ずつのカードが並べられていた。

「よし、こんなもんかな。それじゃあ響は黒のカードの上に置かれた奴を捲って」

「うん…」
ごくりと唾を飲み込む。

「俺は赤のカードの上に置かれた奴を捲るよ。せーのでやろうか。いくよ、せーの!」

響がカードを引っくり返すとパタパタと小さな音を立てて全てのカードが表を向いていく。

「え!?なんで?」
驚いてプロデューサーの捲ったカードを確認する。

プロデューサーの方も自分が捲った方も見事に黒が続き途中から赤が続いていた。

「ええええええ?何したの!?」

「何したのってカード選んだだけだよ、場所は響が決めたんじゃなかった?」
驚きを隠せない響を見てプロデューサーはクスクスと楽しそうに笑った。

「もっかい!もっかいやってよ!」

「いいよ」
そしてまた10枚ずつのカードが赤と黒の上に乗せられた。

「じゃあ今度は響が赤を捲ってみるかい?」

「うん…」

「じゃあいくよ、せーの!」
掛け声に合わせてカードを一斉に裏返す。

「えぇぇ…?」
結果は同じだった。

さっきと同じ様に赤が途中まで続き、また黒が続いていく。

「解ったかい?」

「いや、全然…」

「ちょっと考えてご覧。タバコ吸ってくるから」
そしてプロデューサーがベランダに出て一服して戻ってくると響はトランプを持ってあーでもないこーでもないと独り唸っていた。

「えぇ、だってこれ選んで自分がこっちって言ったらダメだから…うぅ?」

「駄目みたいだね…」

「はい…」
諦めて響はトランプをプロデューサーに渡す。

「答えを聞いたら響怒りそうでやだな…」

「怒んない!怒んないから教えて?」
響が懇願するとプロデューサーは小さく溜息を吐いて響の正面に座った。

「じゃあ、もう一回途中までやってみようか」

「うん」
そして先程と同じ通り繰り返す。

「今の時点で赤はもう揃ってるんだよ。赤い方捲ってご覧」
プロデューサーに言われて響が赤いカードの上に並べられたカードを捲ると確かに赤いカードが揃っていた。

「えぇぇぇ…」

「そしたら答えを教えるからこっちに来て」
響はちょこんとプロデューサーの隣に座ってトランプを覗き込む。

「じゃあ今までやってた通りに答えて、これは?」

「赤」

「じゃあこれは?」

「黒?」

「うーんとねぇ、じゃあ今度はこれ」
プロデューサーはわざとらしく考えるフリをしてカードを選んでいく。

「黒…」

「えっとねぇ、じゃあ。今度はこれにしてみようかなぁ?」

「くろ……」
響の声が震える。

「解った?」

「イカサマだぁーーーーーーーーーーーーっ!」
答えを知って響は声を上げて立ち上がった。

「ほら、やっぱり怒った」
予想していたとばかりにプロデューサーは立ち上がった響を見上げながら呟く様にポツリと言う。

「だって、イカサマじゃん!」

「イカサマじゃない!」

「イカサマだ!黒しか選んでないじゃん!」

「そうだよ。でも響は自分で選んでるつもりだったでしょ?」
プロデューサーの最もな言い分に響は返す言葉が無かった。

「う…確かに…」

「そう言う事だよ」
すとんと響は脱力した様に座りなおした。

「じゃあなに。自分は選んでるつもりで実は何も選んでなかったと…」
嘆く響に追い討ちを掛ける様にプロデューサーが続ける。

「いや、選んでたでしょ?大して重要じゃない所だったけど」
そう言ってニヤリと口端を上げた。

「ぐぬぬぬぬっ!ちょっと待ってよ!じゃあこれはどうなるの?」
響は黒のカードを指差した。

「今の感じで行くと一番最初のカードは絶対どっちかが違う色になっちゃうよね?」
響の指摘にプロデューサーは聞こえるか聞こえないかの小さな声で「気付いたか…」と呟いた。

「なに?何か言った?」

「いいえ何も」
プロデューサーは言いたく無かった。

響が気付く前に曖昧にして逃げようとしていた。

何故ならそこは本当にイカサマと言えるから…

「良く気付いたね」
わざとらしく言うと響は拗ねた様に口を尖らせた。

「だっておかしいじゃん」

「絶対怒るなよ?」

「それは承服しかねる」
聞いた様な覚えのある言葉を響が嫌味に笑って口に出す。

プロデューサーは渋々カードを取った。

「そうだよ。だから響にはキチンと揃ってる方を捲らせないといけないんだ」
そう言って響が捲った赤いカードを指差す。

「それで、響がカードを捲るのに気を取られてる内に…」
プロデューサーは黒いカードを隠す様にして背中を向けているカードを裏返した。

「で、すごいでしょーって言ったらさっさとしまう。っと」
さっと手を滑らせてカードをまとめる。

「イカサマだ…」

「気付かれなければイカサマじゃない」
その言葉を聞いて響は複雑な表情を浮かべていたがしばらくして小さく溜息を吐いた。

「はぁ、じゃあ自分は選んでいる様に勘違いしてて実はにぃにぃの手の平の上だったって事?」

「まぁ、そうとも取れるかもね」

「そっか…。そうだよね」
プロデューサーの予想に反して響はシュンとしょげた様に表情を曇らせた。

「ん、どうした?」
怒り狂う響を想像していたプロデューサーは逆になんだか心配になってしまう。

「ううん。いや、確かにそうだなぁって。結局にぃにぃが居ないと自分、何も出来ないしさ。なんか…にぃにぃが居なくなったらってふと思っちゃった」

「響…」
そう儚げに呟く響を見てプロデューサーは一瞬躊躇したがクスッと薄い笑みを浮かべると響の肩を抱き寄せた。

「また、らしくない事言って。急に甘えたいお年頃?」
響はコテッとプロデューサーの肩に頭を預ける。

「ん…そかも」
そう呟きながら響は静かに瞳を閉じた。

プロデューサーの手が響の頭を軽く撫でる。

「響は、ちゃんとやってるよ。一人でも大丈夫な位キチンと頑張ってる。俺はちゃんと見てるよ」

「ん…ありがと。ね、にぃにぃ一個聞いていい?」

「ん?」

「にぃにぃは自分と一緒にいてドキドキする?」

「するよ」

「にぃにぃの方が年上でも?」
響の問いにプロデューサーは小さく笑った。

「年は関係無いよ。好きな子と一緒に居るんだからしない方がおかしい」
プロデューサーの言葉に響は瞳を瞑ったままクスッと笑みを返す。

「良かった。ちょっと安心した」
プロデューサーは苦笑いを浮かべる。

「ちょっと?」

「うん、ちょっと…にぃにぃはさ。カッコいいし、仕事も出来るから心配なんだ。自分より、大人の女の人の方がお似合いなんじゃないかって」
そう言って響はプロデューサーの腰に腕を回してキュッと抱きしめると肩に一度頬擦りした。

「自分は、まだガキンチョだしさ。それにガサツだしさ、色んな意味でまだまだにぃにぃと同じ立場になれないのかなって…」

「何を言い出すかと思えば…」
プロデューサーは今にも泣き出しそうな響の唇にそっと口付けた。

「ん…」
ゆっくりと唇を重ねたまま少しずつずらし小さなキスを何度も交わす。

唇を離しゆっくりと瞳を開くと目の前でプロデューサーが微笑んでいた。

「響は充分に魅力的だよ?」
プロデューサーのその言葉に嘘は無かった。

浴衣の裾から覗く褐色の内腿

ほんのりと上気した胸元

細い鎖骨

風呂上りの湿った艶やかな黒髪と香り

どれも目のやり場に困るくらい魅力的で艶っぽかった。

「ほんと?」

「うん、ドキドキするくらいにね」

「う…」
胸の鼓動が不安と嬉しさで早さを一層増していくのが解る。

響は目をきつく閉じるともう一度押し付ける様に唇を重ねた。

恥ずかしくてとてもじゃないが真っ直ぐプロデューサーの顔を見て言えなかった。

唇が触れるか触れないかまで顔を引くと響は囁く様に口を開いた。

「じ、じゃぁ…して…」

「響…?」
声のトーンからしてプロデューサーは驚きを隠せない様だった。

「にぃにぃの…我那覇 響に、してよ…」
文字通り目と鼻の先に居るプロデューサーでさえ自分の顔が今どれだけ赤いか解ってしまうだろう。

それほど頬も耳も体も緊張と恥ずかしさで熱くなっていた。

「冗談…は言わないよ…な。こんな状況で…」
焦るプロデューサーの言葉にコクンと首だけで答える。

答えを聞かなくても潤んだ瞳で真っ直ぐ見詰めている響の目を見れば嘘ではない事位は容易に想像できた。

「響…」
プロデューサーは返事の変わりに唇を重ねた。

「んっ…」
何度か食む様に唇の感触を確かめる。

「ん…ふぅ…ん。…んっ!」
何かが響の歯列をなぞった。

初めての感触にビクッと体震える。

そして微かに開いた歯の間を通り抜け響の舌を撫でた。

「んぁっ!…んぅ、はぁ…はぁ」
舌を絡める度にゾクゾクと痺れる様な感覚が背筋に走る。

息苦しくなって荒い呼吸で酸素を貪りながらまた唇を求めた。

心臓が破裂しそうな位弾んでいる。

鼓動が鼓膜を震わせて耳が使い物にならない。

瞳は潤み視界もぼやけている。

思考もままならなかった。

「んっ…んん、ぅん…ぷぁっ」
ようやく開放された舌が甘い吐息と共に透明の糸を引く。

「はぁはぁ、はっ!ん…ん!」
プロデューサーの唇が響の耳元に軽く口付ける。

小さくついばみながら響の褐色の肌を上から下になぞって行く。

「はっん…あっ!ん」
耳元から顎へ

顎から首筋へ

首筋から鎖骨

鎖骨から…

不思議とあの時の様な嫌悪感は無かった。

ただそれよりも嬉しさと不安と恥ずかしさが響の思考を支配していた。

「あっ!ん…ぅん、はぁ…にぃに。ゃ…ぁ、ん。んンっ…はん、っ」
響の胸元を慈しむ様にプロデューサーの唇が形に添ってなぞって行く。

プロデューサーの髪に触れると柔らかな猫っ毛はふわりと響の指をすり抜けた。

「ぅんンっ、あっ!」
チクッと痛みが走った様な気がした。

「ごめん…」
胸元でプロデューサーがぽつりと呟く。

「…?」

「今はこれで許してくれ…」
ゆっくりとプロデューサーが体を起こす。

「ぇ…?」
何が起こったのか解らず呆然としてる響の手を引っ張って起こすとプロデューサーは響をきつく抱きしめた。

「ごめん、響の決心を無駄にしたのは謝る…。でも、今の俺にこれ以上は出来ない」
響を抱きしめて肩に顎を乗せながらプロデューサーはそう謝辞を述べた。

「響に魅力が無いって言う訳じゃない。でも、怖いんだ…。何が起こるか解らない、写真一枚取られた日には全てが終わってしまう…」
プロデューサーの声が耳元で聞こえる。

「にぃにぃ…」

「俺は…響の居ない人生なんて考えられないよ。だから、今はこれで我慢してくれ」
決意は無駄になってしまったが響は寧ろ嬉しかった。

プロデューサーの本音が聞けた事

大事にしてくれている事

そして、誰よりも深く深く想ってくれている事

それが何より嬉しかった。

だから笑ってプロデューサーの背中に手を回した。

「ううん、ごめん。自分が無理言ったから」
響が言うとプロデューサーは手の平返した様にいつもの口調で口を開く。

「全くだ、俺だって我慢するのは辛いんだぞ?第一そんな格好で来られたら目のやり場に困るだろ…」

「えー、いいアイディアだと思ったのに」

「狙ってたのか?」

「あんまり…」

「クッ」
「ぷっ」

「あはははははっ!」
「アハハハハハッ!」
あの時とは違いこうやって笑い合える事が何より喜ばしかった。

「ありがと、いつも気を使ってくれて」

「いいえ」

「ね、もっとぎゅーってしてよ!」
プロデューサーは言われた通りに腕に力を込めて響を抱きしめた。

「ん…ありがと、にぃにぃ」
響もギュッとプロデューサーの体温を感じてしばらくしてプロデューサーの膝から降りた。

「じゃあ、部屋に戻って寝よっかなぁ」

「そうしな、休みとは言えあまり時差をつけないようにね」

「うん!じゃあおやすみ、にぃにぃ」
くるっと踵を返すと不意にプロデューサーに呼び止められた。

「響!」

「ん?なに?」

「その…」
プロデューサーは照れ臭そうに頬を一つ掻くと自分の胸をトントンと指差した後、言いづらそうに口を開いた。

「あまり人に見つからない様にね…」
響が胸元を確認するとくっきりと小さな”跡”が残っていた。

急に恥ずかしさが再発して響は慌てて胸元を隠す。

「あ、えへへっ。なるべく見つからない様にする…」

「頼む…」

「じゃあ、また明日ねっ!」
響はそう声を掛けてプロデューサーの部屋を後にした。

ともすればスキップしてしまいそうな足取りを抑えてゆっくりと廊下を歩き部屋に戻る。

音を立てぬ様ゆっくりとドアを開くと微かな寝息が聞こえてきた。

「お帰りなさい」
思わず声を上げそうになった響は慌てて口を押さえた。

声のする方を見ると貴音がソファに座り夜空を眺めていた。

眠っている美希を起こさぬ様に声を潜める。

「貴音、まだ起きてたんだ」

「はい、何だか眠る事が出来なくて」
貴音は振返る事も無く答えた。

「重症だね、結構」
静かに貴音の隣に腰を掛ける。

「恋煩いと言うのがこれなのだとしたらそうなのかも知れませんね。飲まれます?」
貴音がティーポットをスッと持ち上げる。

「そんなもの飲んでると余計に眠れなくなるゾ?」
そう言いつつも響はティーカップに手を伸ばした。

コツッと陶器の小さな音が鳴るとふわふわと湯気を上げながらりんごの香りのする赤い紅茶が注がれていく。

「アップルティーかぁ」

「フフフッ♪」
響を見て貴音が淡く微笑む。

「うん?」

「いえ、随分とご機嫌が麗しい様ですから。私のお茶にお付き合い頂けるなんて」
貴音の言葉は正しかった。

これまで貴音が紅茶を勧めても響は「そんな上品には飲めない」と言う理由で一緒に飲む事は無かったのだった。

「あぁ…まぁ、その通りだけど。別に貴音が嫌で付き合わなかった訳じゃないゾ?似合わないって本気で思ってたからで」
慌てて取り繕う響の様子を見て貴音はクスッと微笑んだ。

「えぇ、存じております」

「それなら、良いんだけど…」

「今までプロデューサー様と?」

「うん、ちょっとトランプを教わりに…」
言った途端それだけではない事が思い出され思わず胸元を隠す。

「左様ですか」

「貴音は?ずっとここ?」

「はい、美希様がお休みになられてから紅茶を…」
紅茶を一口啜って貴音はティーカップをソーサーごとコトリとテーブルに置いた。

「好きになる…とは、どう言ったものなのでしょうか?」
漠然とした質問に響は破顔した。

「正直わっかんないな…あはは」
乾いた笑いが小さく漏れる。

「自分はさ。一回にぃにぃじゃない人と、まぁ色々あって別れちゃったんだけどさ。その後にぃにぃに会って、最初はウジウジしてた自分を
変えたいだけだったんだ。だってそんな事があった後に直ぐにそんな気になれないしさ」
照れたり塞いだりコロコロと表情を変えながら話す響の言葉に貴音はじっと耳を傾けていた。

「傷つきたくなかったしさ…」

「えぇ」

「んで、東京に来て一緒に行動してて。んもう、色々悩んだよ…嫌われたらやだなーとかにぃにぃの優しさが嬉しかったり引退が決まったりして。でも―」

「でも?」

「いっぱい悩んで、そのまんま何も言わずにお別れしようかと思ったんだけど…でも、そんなの考えてる時にはもう仕方が無かったんだ」
伏せていた視線を上げると響は照れ臭そうに笑う。

「何でこんな事考えてるんだろう?って気付いた時にはもうにぃにぃの事好きだったんだと思う」
そう言って響はさっきとは違ってにぱっと嬉しそうに微笑んだ。

「…っ!そう、なのですか…?」
貴音の頬が微かな紅に染まる。

「きっとそうだよ。貴音も感じない?」
響が身を乗り出すとソファがゆっくり沈んでいく。

「今まで見て来た物が嘘みたいに鮮やかで。明日が待ち遠しかったり一瞬が凄く長く感じたり!一緒に話すのも触れるのも全部がドキドキして…
でもちっとも嫌じゃないんだ!言葉にしたらきっと『緊張』なんだけど、そのドキドキも楽しいんだ!」
響は終始笑顔のまま嬉々として話す。

少なからず貴音も似たような感覚に身に覚えがあった。

そして嬉しそうに語る響が微笑ましくもあったし、少し羨ましくもあった。

そんな関係に自分もなれたらと

「だから貴音もプロデューサー君が好きなら絶対射止めなきゃだめだゾ!貴音ならきっと上手くいくよ!」

「んんっ」
不意に声が聞こえ響はヒヤリとした。

「…むにゃむにゃ」
振り返ると美希が寝返りを打ったのかさっきとは違う方向を向いて寝息を立てていた。

ほぅっと溜息を吐いて再び声を潜める。

「自分、応援してるからさ!」
響はパチリとウィンクをする。

それを合図に貴音は戸惑いの表情を崩すと深く頭を下げた。

「はい、よろしくお願い致します」
顔を上げた貴音の表情にもう戸惑いや困惑は無かった。

不安はあるけれど嬉しそうな笑顔があった。

響の言葉は貴音の胸に暖かなものを芽吹かせてくれた。

何事も相談しあえる仲間

仲間に支えられる喜び

生まれて初めての感情

プロデューサーを想う気持ち

それと

小さな勇気

クスッと一つ笑顔に乗せた吐息を漏らして貴音は再び夜空を見上げた。

「今宵は良き夢が見られそうです」


おまけ あとがき

あいやね、6話は結構前に形は出来上がっててちょっと肉付けしたかったんですけど

まちょっと色々ありまして…時間も無くみたいな、いつもの事なんですけどね。

なのでちょっと何て言うか気分転換に中途半端に違う方面に行ってみました…。

そもそも貴音のお話しにしたかったんですけどねぇ。

なんで響の、しかもややエロになってるのか解らないんですよね…。

やっぱ人間ちゃんと寝ないと変な方向に思考が進んでいくもんですね。

貴音のSSはもうちょっと普通にしようと思います…。

ちょいと今落ち着かない状態なので何時頃書けるのかわかりませんが…がんばります><。

 SS寄り